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yuuの一人芝居

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児童文学 鬼の反乱 3

鬼の反乱 3 
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 二十日月が煌々と吉野の地を照らしていたのですのだわ。

 あたいは勇左衛門ちゃんの背に乗り大きな社の前にいたのですのだわ。

「この寺が燃えたなどと馬鹿な事を・・・。法隆寺は聖徳太子が建造されたものだとは嗤笑、自らを祭る寺を生前に建てる訳がない。誰かが太子の霊を祭らなくては易々と眠れなかったの故の物。辻褄を合わすために焼けたなどとほざいたに違いないのだ・・・」

 仏教の庇護により、争いのない国、天寿国を目指した人が聖徳太子だって事は、あたいは知っていたのですのだわ。小野妹子を隋に遣わしてまで仏教に魅せられたのが聖徳太子であったと言うことは知っていたのですのだわ。それに、法隆寺の他に、四天王寺、蜂岳寺、中宮寺、橘寺、池後寺、葛城寺を建立したことも記憶にあるのだわ。

「和をもって貴とすべし」

 とはこの国に仏教が朝鮮半島から伝来する前からあった言葉で、その精神は秀吉の半島出兵まで大切に守られていたのですのだわ。だけど、主人が何時か、大和朝廷が磐石になる前まで多くの血を流した故にこうような言葉が血の中に流れ込んでしまったのだろうな・・・。と言っていたのを聞いた事があるのだわ。

「勇左衛門さまでしょうか・・・」

 一筋の影が近ずいたと思うと、声だけ落として素早く消えたのすのだわ。

 勇左衛門ちゃんは一瞬身構えたけれど、気配がないのですぐに緊張を解き、

「麻子殿か、いかにも、私が・・・」

 そこまで言って慌てて口をつぐんだのですのだわ。

「軽々しく名乗ってはなりませぬ。万一・・・」

 声は天から降ってきたのですのだわ。

「一族が共通とする隠語、″柿″と言えば・・・」

「″猿″」

「そうです、それで十分なのです。ここに来られたと言う事は「記紀の記」を理解してくださったと言うことでしょうね」

 綺麗に澄んだ幼い声がしたけれど、どこか威圧するものがあったのですのだわ。

「はい。二十日月の夜中天に月が指し懸かった時、元興寺の前にて待つ。そのように理解いたしました」

「さすが、私がこの人と考えたお人、そこまで読み取ってくれるとは有り難いことでございますわ。元興寺が即ち法隆寺だとは良く勉強なされました」

「どうして、あのようなことを書かれたのですか。積年の計画が水泡にきしたではありませんか」

「クーデター未遂なら一人として処刑されることもありますまい。そう思って・・・。あなたには見えませぬか、聞こえませぬか、この地球の啜り泣く声が、そして、その声に窮合するかのように生物が命を落としている音が・・・」

「では、ユートピァの建設よりもその方が急務だと言う考えですか。それは、クーデターを起こしてしかる後では遅すぎると言う考えですか」

「そうです、先ずはこの地球をどうにかしなくてはなりませぬ。環境を再生保全する、そのことなくして・・・いいえ、そのことが即ち人類だけでなく自然もユートピァになると言うことです。だから・・・」

「だから、計画をバラしたと言うことですか。それなら、話し合いでも良かったのではありますまいか。環境の問題ならば父上も大いに感心が深かったのですから・・・」

「いいえ、少しの間あなたと御一緒で考え行動してみたかったのです。私が高校を卒業するまでにエコロジーの件は解決を付けておかなければならなかったのです。義父義母様には少し時間を頂いて・・・」

「兄じゃ義姉じゃは・・・」

「一年間何も考えずに子造りに励んで頂きます。そして、その後はお二人の力をお借りいたします。義父義母様には孫の守を・・・。こうも時が流れるのが早かったらなまなかの回転では付いては行けません。義父義母様がそうだと言っているのではありません。義父様が動かれると他の長老の方々が・・・」

「分かりました。私に向後何をしろと言われるのです。私、父上母上に三年間の猶予を貰って参りました。と言うのも、端者ですので勉学に磯染み国際的な学者になり・・・」

「そんな暇はございません。これから私の甍に御案内いたします。今宵はごゆるりとお休み頂いて、明日から私と一緒に生態学、環境科学、気象学、等を勉強して頂きます」

「学校は・・・」

「そんな悠長なことは・・・。大倹と言う制度があります。あの「記紀の記」を書いている間中考えたのですけれど、これでいいのか、過去の遺物を掘り起こしてそれでいいのかと、それだけで良いのかと考えながらこの國民が恥ずかしくなりました。塵は何処かしこに捨てられ、情けないことにその中には人間の良心まで捨てている者もいます。自分さえ良ければ他はどうなってもいいという利己主義が、まるでルネツサンスによって個人主義が蔓延ったように・・・」

 平安朝を思わせる衣装風俗の乙女が何時の間にか扉の前に立っていたのですのだわ。仄かに香の匂いが漂って来ていたのですのだわ。最近の婦女子のえづくような匂いではなく清楚な日本の女子、乙女の穏やかなものであったのですのだわ。主人が仏壇に焚く線香の匂いとは別に雄の心を擽る様な香があたいの全身を包み込んで法悦の世界へ導かれる様だったのですのだわ。

「そのことは、父上も懸念されて、一族に自然保護を訴え、自然を買い漁りそのままに放置しろと・・・」

「その土地に心ない者どもが産業廃棄物を捨てているのをご存知でしょうか、その事で地水は汚染され川は石油を原料にした化学物質が溢れ、それを飲料にしているのです」

「管理監督の問題だと言われるのですか。管理監督の問題ではなく、それは教育の問題ではないのですか。文明の発達により人間の本能が奪われ削がれ、金で便利さを買い、物に心奪われた人間・・・」

「嘗ては、無知と貧乏が人間を苦しめ、今ではエゴと化学の進歩に追い付かない精神の遅れが人間の心と体を蝕んでいるわ。こんな社会に何が一体いると思いますか」「例えば、平成の改新でしょうか・・・」

「そうよ、そうなのよ、だけど階級制度が確立しつつある現在では・・・」

「元興寺の前と言う事に謎が・・・とすると聖徳太子が積極的に仏教を取り入れ・・・。そうですか、新しい宗教・・・」

「その通りですわ。文明に汚染された心を耕し、自然と共に在ってその浄化の救けを借りて蘇生する・・・」

「つまり、自然の中に溶け込んで自然と生きる、それは道元禅宗永平寺・・・」

「その教義を素にして・・・」

「新興宗教を・・・」

「詩僧大愚良寛の生き方と仙桂和尚の生き様を・・・」「そのお二人は経も座禅も一生続けておられません・・・」

「良いのです、それで。自然と共に生きてその生きる姿を詩に読むのです。つまり、良寛の詩の中から生き方を学び、仙桂の生き方から自然との関係を学び取るのです」

「分かりました。私は二百七十六文字には精通している心算です」

「それは分かります。あなたの姿は得度はしていませんが、仏の道を歩んでいる目です。そうでのうては、「記紀の記」を理解できなかったでしょう。さあー菜と粥の用意を致しております故。桶に湯も張っております故・・・」

「有難う御座います。「記紀の記」はつまり心のクデーター、いいえ心のルネッサンスだと言う事です」

「この日本にもあなたのような人が増えなければならないのです。その担い手になって頂きます。あなたを盟主にするのが私の使命ですから。「記紀の記」はあなたの為に書きましたの」

 二人の会話は何だかよく分からなかったけれど、勇左衛門ちゃんは白魚のような手に導かれて歩きだしたのですのだわ。

 風が出たのかしらん、遠くからサイレンの音がまるで横笛の音のように聞こえて来たのですのだわ。あたいは勇左衛門ちゃんの肩で、前を行く麻子さんの背に揺れる緑の黒髪を見詰めいつ跳びかかろうかとその態勢に入っていたのですのだわ。



          6



 細流の音で目が覚めたのだわ。あたいは大きな伸びをしてやおら音の方へ歩きだしたのだわ。長い黒光りのする板張の廊下が続いていたのだわ。雨戸の隙間から柔らかな朝の緑の陽射しが零れていたのだわ。外は薄明かり、少し湿った空気が心地好かったのだわ。一枚の雨戸が開かれていて、そこから外を眺めると屋根のある井戸の傍で、麻子さんが一糸纏わね身体に水をかぶっていたのだわ。その水の流れが細流の音となって聞こえていたのだわ。あたいはうっとりとした目を麻子さんの全裸に注いでいたのですのだわ。真っ白な肌が水をかぶると、湯気を立てピンクに染まっていったのですのだわ。まだ堅い蕾のような乳房に黒髪が散っていたのですのだわ。あたいの腰の辺りがなんだか重たくなったのだわ。

「茶子兵衛、盗と見をしてはいけないょ」

 あたいの後で勇左衛門ちゃんが声を殺して言ったのですのだわ。

 あたいは上目で勇左衛門ちゃんを見上げ、「ニャン」と泣いてやったのだわ。

「そこに誰かいるのですか」

 麻子さんの凛として声がピストルの弾のような飛んできたのですのだわ。

「はい。私です」

「その声は、勇左衛門さん・・・。ああ恥ずかしい、見ないでくださいまし、目を瞑っていてくださいまし・・・」

 麻子さんは恥じらいの声を緩いホークボールのように投げたのですのだわ。

「ほんに美しゅう御座います。これ程の美しい光景に今だ嘗て出会った事がありません」

「意地悪ですのね、勇左衛門さんは・・・」

「吉備の仇を奈良で、ですよ。・・・まるで天女が朝靄の中に舞い下りたようです」

「あなたも此処へいらっしゃいませぬか。井戸の水がとても冷たくて心地良いのですよ。さあー・・・」

 そう声をかけられた勇左衛門ちゃんは、まるで蛇に睨まれた蛙のように近ずいて行ったのですのだわ。

「あなたも裸におなりなさいませ」

 と言って手桶の水を両の手で掬い近ずいて来る勇左衛門ちゃんに掛けたのですのだわ。

 勇左衛門ちゃんはトレーナを脱ぎ、ジーパンを落とし、パンツを剥ぎ取って麻子さん目掛けて突き進んだのですのだわ。一体何が起きるのかしらと、あいたは胸をドキドキさせながら見詰めていたのですのだわ。

 キャアキャアと言いながら井戸の水を汲んでは掛けあいこに夢中になったのですのだわ。まるでその姿はアダムとイブが禁断の林檎の実を食べる前のように無邪気に戯れていたのですのだわ。

「マラとホトの伝説を知らぬ方が人間にとって幸せかもしれんな。だが、何れそれを知って苦しむこととなろうわい」

 あたいの後で、そう声を落として消えたお人がいたのですのだわ。香の匂いだけが残こっていたのだわ。

 そして、二人が静かになったかと思うと、

「これからの悲願達成のために、願をかけて水ごもりをいたして参りました。明日からはあなたとご一緒に致すことが出来るなんてなんて幸せなんでしょう」

 麻子さんはうっとりとした表情で勇左衛門ちゃんを見上げて言ったのですのだわ。目線を時折り下に持って行き、溜息をつきながら少し恥じらっていたのだわ。勇左衛門ちゃんの目の位置はしっかりと麻子さんの両の乳房へ向けられていたのですのだわ。

「私は勉強よりももっと楽しいことを知りました。あなたに会えてよかった。・・・なんだか勇気が湧いてきました、今ならどんな不可能も可能に出来るような力があるように思えます」

「いいえ、もっと素晴らしい事が・・・。記のイザナギとイザナミとが・・・」

「それでは、私の余れるところを・・・」

「わたしの、足らぬところへ・・・」

 そう言って、二人は必至と抱き合ったのですのだわ。「熱いわ・・・」

「温泉が溢れている・・・」

「だんだんと大きくなって膨らんで来ていてまるで・・・」

「溶岩が噴き出しそうだ・・・」

「塞いで・・・」

「塞がせて頂きます」

 水を汲んだ手桶がガラガラ上がってバシャーと零れたのだわ。

「これからは二人が一人となって・・・が・・・ん・・・ば・・・り・・・ましょう」

「はーい。こんな素晴らしい事があるのなら・・・」

「こんなに大きな安心感があるのなら・・・」

「なんだって出来る」

「なんにだってなれるわ」

 二人の一つになった姿は、二人が発する情熱で濛々と湯気を立てていたのですのだわ。

 陽はすっかり上がっていて、樹齢一千年という木々の隙間からスポットライトの明かりが下りたように浮き上がっていたのですのだわ。それはこの世の物かと見紛う程の光景であったのですのだわ。

「カン、カン」

 と木管を敲く音が聞こえてきたのですのだわ。

「父上が呼んでおります。早く行かなければ・・・」

「一緒に参りましょう」

「ええ・・・ええ、一緒に・・・」

「ははは・・・は・・・い」

 動物は交尾を誰れに教わるというのでもなく出来るものなんだと言う事が分かったのですのだわ。あたいの股間に血液が集まって来ていたのですのだわ。

「血は争えぬものではあるな。文を縦横無尽に操り意を隠し表し玩びした先祖の生業。己れの人生をどの様に生きようがそれはいい。が、血をやり取りし、肉に溺れるようなことがあってはならないからして、くれぐれも気を付けて欲しいのだが」

 さっきと同じ声が天から降ってきたのですのだわ。あたいは目をキョロキョロさせて探したのだけれどスピーカーらしき物は見つからなかったのですのだわ。どうもこの屋敷の人達は姿を見せずに声を出す術に長けているように思えたのだわ。

 辺りはすっかり明けて、柔かな風が頬に当っていたのですのだわ。二人は争うように衣服をまとい始めたのだわ。だけど麻子さんは中々か身体が動かないらしく、勇左衛門ちゃんの助けを借りなくては立ち上がれなかったのですのだわ。



    この作品はここで未完として・・・。

    いずれ稿を新に書き上げたいと思っています。2002/11/1



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